Climbers 1st EP DIYレコーディング 齊藤海にインタビュー
- Climbers 3
- 2024年3月1日
- 読了時間: 7分
更新日:2024年3月19日
『これ自分でやってみたらどうなっちゃうんだろうなみたいな。すごい失敗する可能性もあるし、もしかしたらめっちゃうまくいく可能性もあるじゃないですか。そのどうなっちゃうんだろうを見てみたい。』
─── まず、今回のEP作成にあたって、 DIY レコーディングをしようと思ったきっかけはなんですか。
海:私がDIYの精神を大事にしているからです。 というのと、DIY の方が面白いからですね。以前から自分の曲作りやデモ作り、いわゆる歌ってみたのMIXはやっていたので、ある程度DTM ソフトは使えたし全くの初心者ではないかなというところで踏み切りました。
───そもそもそういう作業に馴染みがあったってことですね。
海:そうですね。あと音作りとか、実験的なものがすごい好きなので。あと音いじりっていうんですかね、録った音に色々手を加えていく作業、そういうのを一度しっかりやってみたいなと。これまで歌ってみたのMIXとか、ギターの音作りとかをしていくうちに、そこに面白さみたいなものを感じる自分に気づいて。マイクとか機材もいろいろ試して比較するのが好きなんです。
───マイクは幾つか使っている印象がありますね。
海:機材の個性みたいなものを色々自分で試したり違いを比べたり、研究みたいなことが大好きなんですよね。元々安いコンデンサマイクやダイナミックマイクは持っていましたが、レコーディングで主に使うのはコンデンサマイクなので、この機会にずっと欲しかったAKGのマイクを買いました。レコーディングではそれと色々組み合わせて、普段ライブでボーカル用に使ってるテレフンケンM80とか、SUREのbeta 58とかbeta 57とか、その辺を使い分けつつ、詳しい方々に意見をもらったり、自分でも色々試しながらという感じで進めました。その中で『最後は自分の感性を信じて』というアドバイスを頂いたので、セオリーは勉強しつつそれに囚われすぎないようにしながらチャレンジしました。
───色んな人に助けて貰ったと話がありましたけど、これまでの経験と比べてハードルが高くなる部分があったと思うんですが、一番大変だなと感じた事はなんですか。
海:まず歌ってみたのMIXをするのと、今回のように一からレコーディングする事の違いは、楽器をマイクで録るっていう作業があるかどうかなんです。歌ってみたはオケのトラックの音源があってボーカルの録音データ(家で歌い手が録ったもの)を受け取って編集をしてました。
今回の場合、楽器にマイクを立てて録音するというところから始めないといけないので、違いはまずそこでした。自分の歌やギターを録ったりは少しやってたんですけど、あくまでバンドメンバーに聴かせるクオリティでしたので。それにまずカホンという楽器も初めて録る対象で、それをどう録るかというノウハウもあまりありませんでした。
あとは、録った音を後から加工することはできるんですけど、録り音が良くないと後で色々いじっても良くならないっていうのが大前提でありますね。なので今持っている限られた機材と環境で、一番いい音で録るにはどうしたらいいかというのを試行錯誤するのが一番大変でしたね。楽器が鳴る時の一番美味しい音っていうか、魅力的な音みたいなものをとりこぼさずに録るか。あるものをカットすることはできるけど、録れてないものは後から足せないので。楽器の持つ美味しい音を余すところなく録れるように、マイク選びから、そのマイクを立てる位置とかも重要になってくるんですけども、その辺りが1番大変で、でも楽しかったです。
───レコーディング風景の写真を見て「野戦病院」とご自身で言っていた光景が印象的でしたけど、あれはその美味しい音を録るための工夫なんでしょうか。
海:野戦病院は簡易ブースですね。前に住んでたアパートのカーテンを外して持ってたので、それをスタジオにあるマイクスタンドをT字にして掛けただけのものです。部屋の反響を抑えるのが目的で、 見た目はなんだか奇妙でショボい感じがしますが、これがあると違うんですよね。意識して聞くと部屋って反響音があって、特にボーカルのトラックは部屋の反響が入ってしまうとリバーブやコンプを後からかけていく段で邪魔になってくる。それよりももっとボーカルの表現、美味しい音の成分みたいなのにフォーカスしていきたいので、それらの反響を取り除くデッドニングのためのものです。ボーカルに使うマイクはコンデンサマイクという、わりと繊細な音も拾うマイクなので、野戦病院みたいなものが必要でした。カホンとか他の楽器も一緒ですね。チープな環境でも最大限いい音で録りたかった故の野戦病院です。
───ご自身がバンドメンバーとしてやりつつ、レコーディングのエンジニアもするというのはちょっと大変そうな感じがしますが。
予想はしてたんですけどやっぱり大変でしたね(笑)。まず自分の立ち位置みたいなものが難しいというか。外部にエンジニアをお願いすればバンドメンバーはレコーディングという一つの目標に向かって結束して向かっていけると思うんですけど、私がエンジニアという立場に立つことで、時々バンドメンバーとは逆の立場にいる必要がありました。いいテイクを録るために厳しい目というか、厳しい耳で聞かなきゃいけない時もある。それは自分のパートもそうなんですけど…つまりプレイヤーとはまた違う視点を別で持つ必要がありました。
レコーディング中はもう夢中になっちゃってるというか、うっかりミスは絶対できないなみたいな、かなり緊張感もあって…。せっかくいいプレイをしてもらったのに録れてなかったとか、機材やPCの設定をミスっちゃってたとか、そういうことは本当にやらかしてはいけないとピリピリしてました。スタジオの時間が限られてるので自分のパートだけ自宅で録ったりもしていました。そんな感じでレコーディング中はあんまり楽しむ余裕はなかったかな。その日が終わるとどっと疲れてた。笑
どちらかというと録り終わったものをMIXしている時が楽しかったです。ひとつひとつの録音を整えていって、全てのトラックを重ねて再生してみたらブワッと鳥肌が立つこともありました。そういう瞬間は幸せですね。
攻めた音作りみたいなの事を考えられた部分もあって。多分エンジニアが100人いたら100通り、100通り以上のMIXの仕方、録り方があると思うんですけど、普段一緒にプレイしてるしアレンジもしてきたからメンバーの曲への解釈も分かるし、細かい自分たちのわがままやこだわりをストレートに表現できるのは DIY ならではのいいところじゃないかな。例えばこの曲の楽器にはこんな種類のリバーブをこのぐらいの深さでかけてみよう、というのを細かく自分で調整できるのはすごく面白いことでした。
───新しい挑戦となった今回、一番気付きになったと事や、発見になった事はありますか。
海:それはすごくたくさんありますね。自分の楽器の事もそうだし、バンド全体の音作りに関することもそうだし。やはり録ってみてわかる事は色々あって、自分のパートならいかに他の楽器とかぶらないようにフレーズを弾くかみたいな所とかは、きちんと録音してみないと気づかなかったです。あとはベースがいないから低音が薄くなりがちなところをどう補っていくかという所は色々アドバイスも頂いたりして工夫しました。
Climbersならではのギター、ギター、カホン編成、攻めたスタイル、攻めた音作りみたいなものをレコーディングして音源としてお届けできる方法が今回で何となく見つけられたかなという感じです。これから新たに曲を録っていくと、そのたびに気づきはあるんだと思います。
───今回ちょっと大変だったという話もありましたが、今後とも音を録っていきたいみたいな事は考えていますか。
海:そうですね。是非やりたいですね。もちろんプロにお願いしたら、いい環境で録って貰って、素晴らしいミックスで、きっとすごく勉強になりそうです。そういう機会もあればいいと思います。
───最後に、DIY でやりたかった気持ちがあったという話がありますが、そのパンクなアティチュードというか、海さんの姿勢はどういったところから来てるんでしょうか。
海:なんでしょうね。もう生まれつきじゃないですか(笑)多分やってみたがりなんだと思います。興味あることを片っ端からやってみたらどうなるんだろう?どうなっちゃうんだろう?みたいな好奇心ですよね。これ自分でやってみたらどうなっちゃうんだろうなみたいな。すごい失敗する可能性もあるし、もしかしたらめっちゃうまくいく可能性もあるじゃないですか。そのどうなっちゃうかなみたいなのを見てみたいっていうのが一番の動機であり、モチベーションです。レッツDIY ですよ!
───締めの一言らしい言葉が出たところで、ここまでにしましょうか。ありがとうございました。
海:ありがとうございました。
───いやー、こりゃあかなり良い話が聞けちゃったなあ。
インタビュアー:小林山岳
スタジオ練習帰りの車内にて
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